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豪州の森林火災、野生生物を絶滅のふちに - ウォール・ストリート・ジャーナル日本版

 オーストラリアで続く大規模な森林火災は、コアラから固有種の鳥類、ハチに至るまで、同国固有の野生生物の生存を脅かしている。研究者らは一部の生物種が絶滅の瀬戸際にあるのではないかと危惧している。

 今回の森林火災では少なくとも26人の死者が出ている。焼失した家は何千軒にも及び、一部の専門家によれば、同国の経済成長率は0.4%押し下げられる可能性がある。ニューサウスウェールズ州では、2万平方マイル(約5万2000平方キロ)の土地が焼け、1万3000頭の家畜が死んだ。

 火災は、オーストラリアの夏場に当たる2月まで続くとみられ、さらに長引く恐れもある。

グリーン・カーペンター・ビー Photo: Remko Leijs

 科学者らによれば、少なくとも6種の生物が絶滅する恐れがある。ディーキン大学の野生生態学者ユアン・リッチー(Euan Ritchie)氏は「今回の火事で複数の生物種が絶滅寸前まで追い詰められているかもしれない。すでに絶滅した可能性もある。それは現地入りしてみないと分からない」と語った。

 一部の科学者は、森林火災で大きな被害を受けた東海岸沿いの地域と南部のカンガルー島だけに生息するメタリック・グリーン・ビーの一種について懸念している。研究者らによれば、カンガルー島のグリーン・カーペンター・ビー(緑色のクマバチ)は一掃された可能性がある。

 アデレード大学のハチの専門家で、5年にわたってカンガルー島のグリーン・カーベンター・ビーの保護活動を続けているKatja Hogendoorn氏は「こうした種は、深刻な状況に陥っている可能性が大きい。すべての生息地が焼失したか、焼失の危機にあるからだ」と述べた。

 今回の森林火災は、生物種の絶滅の比率がもともと高かったオーストラリアで、自然保護活動家らに新たな難題を突きつけた。オーストラリア・エコロジカル・ソサエティー(ESA)によると、同国では1788年以降、100種の既知の植物、動物が絶滅した。一部の在来種の動物は、18世紀に欧州人が流入した後で苦境に陥った。彼らは、農業のために土地を切り開くとともに、キツネ・猫などの肉食動物を持ち込んだ。

 シドニー大学の生態学教授のクリス・ディックマン氏によれば、今回の森林火災で10億匹以上の動物が死んだ可能性がある。この推計は、哺乳類、鳥類、爬虫(はちゅう)類100種以上を対象とした2007年の生息密度データに基づくものだ。このデータには、コウモリ、カエルのほか、昆虫などの無脊椎動物は含まれていない。

 生態、自然保護分野の科学者らは、オーストラリア各地の政府当局者らとともに、信頼性のある影響評価を得るため、生息数調査計画を策定している。

カンガルー島でけがをしたコアラにミルクを飲ませるボランティア Photo: Lisa Maree Williams/Getty Images
シドニー近郊の山火事で火傷を負ったカンガルー Photo: Jill Gralow/Reuters

 火災に対する動物の反応に詳しいチャールズ・スタート大学のデール・ニンモ准教授は、生き残った動物も厳しい状況に直面すると述べる。火災によって生息地の視界が開けたことにより、生き残った動物がキツネ、猫や鳥などに捕食されやすくなるからだ。キツネや猫などは、餌になる動物を探すため、燃え尽きた場所に集まって来ることが知られている。

 ニンモ氏は、「野生動物に対して働くこれら全てのストレス要因がある上に、前例のない規模の火災が起こった。多くの種はこうした他のストレス要因を理由に狭い範囲に分布していたため、火事が種を一層絶滅に近づけた可能性がある」と話した。

 ニンモ氏によると、一部の種は煙や火事の音をきっかけに、身を隠したり、逃げたりといった反応をするよう進化した。小型の哺乳類や爬虫類は、有袋類のウォンバットの巣穴に隠れることができ、カンガルーなどの大型動物は小川やその他の水源を探す。しかし、火災の規模が大きく、火の勢いも強かったことで、生存の可能性が低くなったかもしれないと同氏は指摘する。

 生き残った動物を助けるためには、時に想像力を働かせた解決法が必要だ。ニューサウスウェールズ州政府はこれまでの1週間に、絶滅危惧種のオグロワラビーに向けて空から何千ポンドものニンジンとサツマイモを投下した。ワラビーは通常、岩の間に隠れて火災から逃れるが、生息地の岩場周辺の植物が焼かれてしまうことで、餌が限られた状態に置かれることになる。

 科学者は、カンガルー島でしか見られないテリクロオウムの亜種やスミントプシス(ネズミほどの大きさの有袋類)についても心配している。

 専門家は、オーストラリア東部に生息するフクロアマガエル、火災前の生息数が500未満の鳥のキガオミツスイ、有袋類のアシナガネズミカンガルー、オグロイワワラビーなどの種についても、大きな懸念を抱いている。

 オーストラリアの有名な有袋動物、コアラも影響を受けている。コアラは主に火災の被害を受けた東海岸に生息している。東海岸はしばしば「コアラコースト」と呼ばれている。

 さらに悪いことに、不妊や失明の原因になり得るクラミジアに感染していないコアラが生息しているのは、火災の深刻な被害を受けているカンガルー島だけだ。

 コアラは国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧Ⅱ類 (VU)に分類されている。アデレード大学のコアラ研究者、ナターシャ・スパイト(Natasha Speight)氏によれば、今回の火災により絶滅危惧ⅠB類(EN)へと区分が変更される可能性がある。同氏は、コアラに関する今回の火災の影響を判定するには、今後数カ月間にわたり幾つかの州を対象に生息調査が必要になると指摘した。

 20世紀初頭の開墾や火災によってグリーン・カーペンター・ビーの生息地域は狭められ、一部の地域では絶滅した。カンガルー島で2007年に発生した火災以来、Hogendoorn氏をはじめとする研究者たちは同島の自然保護活動に重点を置いてきた。

 こうした火災はカーペンター・ビーの主な巣となっているバンクシアの枯れ木を焼失させた。こうした「すみか」が自然に再生されるまでには、少なくとも30年を要するとみられる。このハチの巣としてはほかに枯れたススキノキ(グラスツリー)の茎があるが、これらは6年程度で分解されるもので、2013年までには姿を消しかけていた。

 研究者らはカンガルー島でのカーペンター・ビーの生息数の増加を手助けするため、ハチにとっての巣となるような茎状のものを作ってきた。研究者らは昨年まで、カンガルー島にある国立公園内や外部の12カ所においてバルサ材で作った440に上る巣の面倒をみてきた。Hogendoorn氏は、こうした巣はすべて焼失したと思われると語った。

 自然界の生態系においてハチは重要な役割を果たす。オーストラリア原産の一部の花は、花粉まで達するのが難しく、ミツバチでは授粉することができない。このため授粉はバズポリネーターとして知られるカーペンター・ビーやその他のハチに頼っている。これらのハチの行動は基本的に花にしっかりとつかまり、飛翔筋を素早く動かしたり、あるいは頭部を当てたりすることで花粉を散らすものだ。

 Hogendoorn氏は「手間のかかる作業だが、驚くほど美しいハチなのでやるだけの価値はある」と語った。同氏によれば、カンガルー島でのカーペンター・ビーの生息状況を調査するために研究者たちが同島に再度行けるようになるまでには1カ月程度かかる見通しだ。

カンガルー島で死んだコアラ Photo: david mariuz/Shutterstock

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January 15, 2020 at 09:22AM
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