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SaaS導入で意識すべき、バックオフィスの3階建て構造 - ITmedia

 2020年は、日本のバックオフィスの大きな転換点になる。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言を受けて、多くの人たちが在宅勤務を余儀なくされているからだ。オフィスに出勤することが前提になっていた業務プロセスは、在宅勤務になるとほとんど機能しなくなる。

 筆者は、多くのバックオフィスの業務プロセスを見てきたが、アナログで属人化した業務プロセスに疲弊している企業は多い。しかし、業務プロセスの見直しは難易度も高く、かなりのリソースが必要なため、ズルズルと現状を維持してしまう。それがコロナショックという荒療治によって、ついに変わらざるを得なくなった。

 国が緊急事態宣言を出す有事である。できるかどうかにかかわらず、多くの企業が在宅勤務で業務を回していく方法を模索せざるを得ない。SaaSの普及率も、この1年で飛躍的に伸びるだろう。今回は、SaaSを使ってバックオフィスを再構築する上で欠かせない業務設計について見ていく。

業務設計の3つのポイント

 業務設計とは、最適な業務プロセスを実現するために、業務フローやオペレーションの見直しはもちろん、SaaSの活用なども含めて業務全体を再設計することだ。営業や経理などの業務ごとにバラバラに運用されてきたものを、全体を一連の業務として捉え直すことで、スムーズで無駄のない業務プロセスとデータの整合性が実現できる。

業務設計とは:筆者作成

 業務全体を一貫して管理するためのシステムの構築は、導入費用や保守費用も高く、これまでは中小企業で導入することは難しかった。SaaSが普及し、SaaS同士の連携もAPIによって容易に実現できるようになったことで、多額の投資をしなくても月額数万円でそれが実現可能になってきている。

 SaaS導入においては、第1回でも説明した通り、「運用をシステムに合わせる」のが基本となる。自社の運用に合わせた要件を提示して、開発会社にシステムを作ってもらうのとは逆で、SaaSの機能や仕組みに合わせて、自社の運用を変えていかなければならない。導入時には業務フローの見直しが絶対条件なのだ。

 そこで重要になるのが前述の業務設計だ。その際のポイントは3つある。

  1. 全体最適の視点を持つ
  2. 自社にあったSaaSを選ぶ
  3. 会計処理を意識する

 まず、経理や営業などの部門を超えて、会社全体の業務の流れをきちんと把握することだ。営業部門が効率化したことによって、経理部門の手間が増えてしまっては元も子もない。部分最適ではなく、常に全体最適の視点を持つことが重要だ。

 次に、SaaSそれぞれの機能や使いどころを把握することだ。単なる機能一覧ではなく、各SaaSがどういう思想で作られていて、どこに強みがあるのか、足りない機能はどうやって補うかなど、実務的な観点で理解しておかなければならない。自社に合ったSaaSを選ぶことが重要だ。

 最後に、会計処理から逆算して考えることだ。企業の決算発表や税務申告も正しい会計処理を基盤としており、企業活動は最終的には必ず会計に反映される。営業管理や労務管理などの仕組みを構築する際に、会計にどう反映されるのかを意識しておかないと、経理部門での二度手間が生じてしまう。

 この3つのポイントを、中小企業が内部人材だけで押さえるのはかなり難しい。そこで筆者は業務設計士を名乗り、業務設計に特化したコンサルティングサービスを提供している。SaaS導入支援をしているところは増えてきたが、業務設計からきちんと取り組んでくれるところはほとんどない。

3階建てのバックオフィス

 バックオフィスは、3階建ての構造になっていると筆者は考えている。1階が給与計算や経費精算などのフロントの業務、2階がそれらを最終的に決算書の形へと変える経理処理、そして3階ができ上がった決算書を活用した経営管理、という3段階だ。図にするとこのようになる。

バックオフィスの3階建て構造:筆者作成

 従来の経理処理では、1階と2階は処理フローもデータ管理も切り離されていた。経理は1階の各処理が終わった後、またゼロから経理データを作成するという対応を行っていた。それが、SaaSによって1階部分の処理がデジタル化され、そのまま2階に連携できることが経理業務全体も効率化した。

 日本でも2000年前後に大企業を中心に導入が進んだERP(Enterprise Resources Planning)が、業務と経理を一貫処理する思想で作られている。企業の基幹系業務のデータが迅速に集約されることで、経営判断を素早く正確に行うことができる。

 ERPは導入費用に最低でも数千万円かかることもあり、導入のハードルはかなり高かった。しかし、SaaSとAPI連携の普及によって、中小企業でも1階から3階までを一貫して管理することが可能になってきている。

 この変化に、バックオフィスも事務処理センターのままではいられない。スマートフォンの普及によって、この10年で私たちの生活が大きく変わったように、SaaSの普及もバックオフィスの役割を大きく変えるだろう。

 AIを含めてシステムが代替できるのは、まだ当面は単純な処理にとどまるので、システムをうまく活用して効率を上げたり、ミスを発生させたりしない仕組みを構築できることが、バックオフィスには求められるようになっていく。SaaSを活用した効率化には、SaaSの機能も重要だが、業務設計の観点で全体を見直すことができるかどうかがポイントになるのだ。

効率化しなければ生き残れない

生産年齢人口の推移(総務省「H28情報通信白書」を基に筆者作成)

 企業におけるデジタル化や効率化に対する取り組みは、経費削減を目的としたものが多かった。しかし、日本の生産年齢人口はこれから減少の一途をたどることが確実であることを考えると、企業が生き残るためには必要不可欠なものとなる。根本から仕事の仕方を見直さなければいけない。

 最近はDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を聞く機会も増えてきた。DXとはデジタル技術の浸透によって、既存の価値観や枠組みを根本から変革していくことを意味する。ここで重要なのは、デジタル技術が進展するだけでは決して変革は実現できないということだ。

 Microsoftが17年にアジアのビジネスリーダーに調査した結果を見ると、DXにおける優先順位の1位は「業務を最適化すること」になっている。人間が仕組みを作り、業務を最適化した上で、適切にデジタル技術を活用することでDXは実現できる。

 SaaSの普及によって、中小企業でもデジタル技術の恩恵を受けることが可能になった一方で、業務の見直しや再構築を行う業務設計の重要性はますます高まっている。表面的な最新技術や新機能を追うのではなく、まずは足元の業務を棚卸して、ゼロベースで業務を見直していくことが、遠回りのようで実はDXに向けた最短の道になる。それが、本当に効率を上げるためのSaaS活用につながるのだ。

執筆者 武内俊介 株式会社リベロ・コンサルティング代表取締役、税理士

業務設計士。金融の企画部門、会計事務所、ベンチャーの管理部門を経て現職。徹底した現場ヒアリングにこだわり、CRMの構築から会計データへの連携・活用までの一気通貫した業務とシステムの設計を提供している。

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May 07, 2020 at 10:40AM
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