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オフィスに出勤しないと昇進に不利になる? リモートワークの理想と現実 - WIRED.jp

フェイスブックをはじめとする大手テック企業は、これまで多額の給料とストックオプションを気前よく与えることで、過熱気味なシリコンヴァレーの労働市場で優秀な人材を引きつけようとしてきた。こうした企業は、米国でも特に高額なオフィスの賃料を払い、スタッフがそこで長時間過ごせるように無料の通勤バスや食事、ヘアカット、衣類のクリーニングといった特典も用意している。

だが、新型コロナウイルスのパンデミックによって数カ月の在宅勤務を経験したいま、企業のなかには過去の慣習を疑問視するところも出てきた。

フェイスブックの最高経営責任者(CEO)のマーク・ザッカーバーグは5月の社内ヴィデオ配信のなかで、これから新設されるポストを含む多くの職でリモートワークを選べるようになると発言した。彼はまた、ニュースサイト「The Verge」の取材に対し、5年以内には社員の半数が社外で仕事をするようになるだろうと答えている。

ツイッターCEOのジャック・ドーシーも、社外で働きたい社員は今後もオフィスに戻らなくて構わないと語っていた。ザッカーバーグの発言は、これに続くものだ。

関連記事:在宅勤務でシリコンヴァレーの労働力が分散、テック業界の「仕事のあり方」が変わろうとしている

オフィスでの勤務から好きな場所で働けるワークスタイルへのシフトは、どんな組織にとっても難しい挑戦だろう。だが、シリコンヴァレーの文化のなかで成長してきた企業にとっては、特に困難が伴うかもしれない。

これまでリモートワークを研究・実践してきた人たちいわく、企業のリーダーや幹部たちがベイエリアに下ろした根を(ときに物理的に)引き上げないかぎり、新たにリモートワークを決意した社員たちが否応なく「二級社員」になってしまうというのだ。

給料ダウンと快適な生活のトレードオフ

企業が贅沢なオフィスで働く社員を減らしたがる理由は、想像に難くない。ハーヴァード・ビジネススクールで労働地理学を研究する准教授のプリトヴィラージ・チョードゥリーは、最高財務責任者(CFO)たちは不動産コストの削減が大好きなのだと指摘する。

地価が高いベイエリアの外で雇用される従業員の給料は、ベイエリア内で働く従業員と比べて低めに設定されがちだ。ザッカーバーグも、安い地域に引っ越す社員の給料は減額すると話している。

とはいえ、その代わりに現在より広い家に住めたり、通勤時間を短くしたりできるなら、そうしたトレードオフも十分に価値があると考える人もいるだろう。ザッカーバーグによると、フェイスブックの社員にアンケートをとった結果、リモートワークにに「かなり興味がある」または「非常に興味がある」と答えた人は全体の20パーセントを占め、「いくらか興味がある」と答えた人も20パーセントいたという。

だが、リモートワークの実施には計算できないコストもかかる。なかでも大変なのは、いろいろな地域やタイムゾーンで働き、ヴァーチャルでしか会えない従業員たちをいかに調整、管理するかだ。仮にリモートワークに興味をもっている企業が、自社の管理職や幹部の多くをオフィスにとどまらせるのだとしたら、従業員の調整や管理は非常に難しいものになるだろう。

リモートワークが生む昇進の不平等

チョードゥリーいわく、リモートワークとオフィスワークのハイブリッドは、リモートで働く人たちにとって不利になりやすいという。社外で働く人は社のリーダーたちから注意を向けられにくく、一方で社内で働く人は経営陣のニーズを満たし、昇進しやすいからだ。

しかし、「それは破滅への道になるでしょう」と、チョードゥリーは言う。「リモートワークを成功させるためには、社員の全員かその大半がリモートで働き、管理職もリモートで働かなければなりません」

ソフトウェアスタートアップのGitLabでヘッド・オブ・リモートを務めるダレン・マーフも、チョードゥリーの意見に賛成という。GitLabには65カ国以上に1,200人を超える社員がいるが、オフィスはひとつもない。

マーフによると、従来型のオフィスとリモート人員の併用は、水と油を混ぜるようなものだという。「会社側がよほど努力しない限り、リモートワークの社員たちは自分は“二級社員”だと感じてしまうでしょう」と、彼は言う。

今回の取材ではフェイスブックにもコメントを求めたが、回答は得られなかった。ザッカーバーグは5月下旬、彼自身もこれまでより多くの時間をオフィスの外で働くようにするつもりだと話していたが、同社がフランク・ゲーリー設計の本社ビルを売りに出したり、多くの経営幹部にシリコンヴァレーの高級住宅地から引っ越すよう要請することはなさそうだ。

「上級幹部をリモートワーク要員として雇うなんて、なかなか信じられません。もともとそうした慣習が企業文化に深く根付いているなら別ですが」と、サンノゼを拠点とするIT人材企業ロバート・ハーフ・テクノロジーのアダム・ベネットは言う。

『WIRED』US版は、グーグルのCEOであるサンダー・ピチャイへのインタヴューの際にも、同社がフェイスブックのようにリモートワーク戦略を採用する気があるか質問してみた。しかし、彼は言葉を濁していた

コミュニケーションの鍵は「記録」

仮にフェイスブックのような企業があらゆる役職の社員を社外で働かせることにした場合、リモートワーカーの増加によって管理職は新たな重荷を背負うことになるだろう。「マネジメントの仕事は、いまよりずっと難しいものになります」と、ペンシルヴェニア大学ウォートン・スクールのマネジメント学教授、サイジャル・バーサードは言う。

研究によると、ヴァーチャルなチームで働く場合、信頼関係を築くことはより難しくなり、対立も起きやすいことがわかっている。同じ空間で働いたり、ボディーランゲージを使えなかったりする場合、誤解が生じやすく、しかもそれが長く残りがちだとバーサードは言う。

例えば、片眉を上げたり深いため息をついたりといったボディーランゲージは、新しい決定に対する不安を表現するものだが、グループヴィデオチャットのミーティングの場合、会議室でテーブルを囲んで話し合っている場合とは違って、マネージャーがそれに気づきにくくなる。

かなりの人数、あるいは全員がリモートワークをしている会社では、社員に共有ドキュメントやその他のツールを通じてあらゆる議論や決定事項、反対意見の記録をつけることに慣れてもらう。それによって、こうした問題を最小限に抑えようとしている。

こうした施策は、新しく採用された人にとってはやりにくいこともあるだろう。だが、どうしても必要なことなのだと、eコマース向けの不正防止ツールを提供するSignifydの共同創業者マイクル・リバティーは言う。彼を含め、同社の米国在住エンジニアの約半数は、リモートで働いている。

「社員には、あらゆることが公開される状況に慣れてもらわなくてはなりません」と、リバティーは言う。「ウォーターサーヴァー付近の立ち話を小耳に挟むこともなくなるので、“代わりの何か”が必要になります。これは1対1のメールのやり取りだけでは不可能でしょう」

同様の理由から、GitLabでもSlackのメッセージが60日後に消えるように設定されているという。

GitLabはまた、すべてのプロセスを几帳面にオンラインハンドブック上に文書化している。このなかには、企業文化を定義するパートや、「非公式のコミュニケーションを公式化する方法」を説明するパートもある。

こうした習慣は、責任回避が目的ではないかと感じる人もいるかもしれない。だが、こうした事柄を明白にしておくほうが、従来のテック企業のあり方よりもずっと効果的で、常識的だとマーフィーは言う。「オフィスの装飾や個性的な照明、卓球台などは、企業文化の定義方法としてはひどいものです。企業文化とは、社員が互いをどう扱うか、顧客をどう扱うかのことを指すのですから」

問い直されるオフィスの魅力

テック企業のリモートワークへの移行に関してまだわかっていないことのひとつに、結局どのくらいの人が物理的なオフィスの文化を好んでいるかという問いがある。

「文書から企業文化を学ぶと言われても、あまり楽しそうには聞こえません」と、ヴァレリー・フレデリクソンは言う。彼女はメンローパークのコンサルティング&リクルーティング企業フレデリクソン・パートナーズの創業者だ。「テック企業の多くでは社員がオフィスを歩きまわり、カップケーキやフルーツを食べ、同僚とおしゃべりしたりして楽しみ、人間関係を構築しています」

実際に試してみて初めて、自分はリモートワークが向いていないとわかる人もいるだろうと、フレデリクソンは言う。また企業のなかには、若手社員、特にシリコンヴァレーの企業のエンジニアのチームに不可欠な新卒社員の場合、他者から学び、長期的に見て有能な労働力となるために、一定期間はオフィス内で働く必要があると気づくところもあるだろうと、フレデリクソンは考えている。

域外で働く住民を招致するプログラムも

調査によると、フェイスブック社員以外にも多くの人がリモートワークを希望している。その理由は配偶者のキャリアのため、いいスキー場の近くに住みたいから、高齢の親の近くに住みたいなど、さまざまだ。

これからリモートワークは、ますます普通のことになっていくだろう。米国労働統計局によると、2003年には労働者の19パーセントが、18年には25パーセントが、少なくともときおりはリモートワークをしているという。

リモートワークに関心を示す企業は、高給とりの住民を招き入れたいベイエリア外のコミュニティからも支持されるだろう。すでに試みを始めている地域もある。

「Tulsa Remote」という非営利プログラムは、オクラホマシティー外の企業で働きながらオクラホマシティーに転入してきた住民に対し、10,000ドル(約108万円)の補助金やその他の特典を提供している。これに似たプログラムを、ヴァーモント州政府も実施しているという

ハーヴァード大学のチョードゥリーは、フェイスブックなどの企業が今後もリモートワーク志向を継続する場合、過去数十年の間にベイエリアなどの沿岸地域に移住していった若くて高学歴な人たちの一部が、米国のほかの地域に“逆流”するようになるだろうと指摘する。

そうなれば、次のトレンドを打ち出すためにわざわざお金のかかるシリコンヴァレーのオフィスで働く必要があるのか──。今後、試されることになるだろう。

※『WIRED』による在宅勤務の関連記事はこちら

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