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リノベーションされたシェアオフィスを人気物件に。空き物件再生請負人が描く、まちの未来 - LIFULL HOME'S(ライフルホームズ)

自社所有でない物件を初めてプロデュースした「請負人」

地方都市に増える、シャッターが下りたままの空き店舗。「地元のために」と店舗やオフィスを求める創業希望者。その両者をつなぐ北海道旭川市の「空き物件再生請負人」が、次々とプロジェクトを始動させている。株式会社野村設計取締役の野村パターソン和孝さんだ。ここ3年で20件の中古物件を取得し、創業希望者に有利な条件で安く貸し出してきた。その経験とノウハウを買われ、市内で大型倉庫をリノベーションした複合型シェアオフィス「HOKUO LAB(北王ラボ)」の運用をプロデュース。人と人をつなぐ独自の仕掛けで、理想の「彩りのあるまち」をつくるため走り回っている。

シェアオフィスは2020年7月にオープン。もともと醤油や味噌をつくる醸造会社の倉庫だった。築64年の木造2階建てで、敷地面積は900坪にも及ぶ。10数年利用がないままだったが、先祖代々、この建物と土地を受け継いできた現オーナーが「地元のために活用したい」と建築家に相談。周辺に例が少ないシェアオフィスで地域に活力をもたらそうと、アイデアを固めていった。ソフト面での活用法を模索する中で、地元の建築家が2019年冬、物件の再生を多く手がけていた野村さんに話を持ちかけた。

野村さんとしては、自社所有ではない物件は扱った経験はなかったが、「建物は売りたくないけれど活用したいという人は多い。自分の役割は、閉まっているシャッターを開けること」というスタンス。オーナーと建築家の思いやプランに共感した野村さんは、すぐさま動いた。新規創業で想定できるテナント層や、車を使わずに通勤したり、職場でリフレッシュしたりする新しい働き方をするためのシャワー室の設置などを提案。醤油や味噌のブランドだった「北王」をベースに、「北王ラボ」と自らネーミング。ロゴは、クラウドソーシングで海外のデザイナーに発注した。

地元の建築家による設計では、一部を解体する「減築」でコンパクト化するなど使いやすさを重視。床をすべて張り替え、断熱材を十分に入れた。部屋は6畳、8畳、10畳、13畳の4種類で、2階にはオフィスが7部屋と、交流を生むスペースとして野村さんもこだわったカフェがある。1階はエントランスと1部屋をつくった。2020年3月に着工し、6月下旬に完成した。

リノベーション前の倉庫(左上)と、工事後の「北王ラボ」。カフェとして利用されるスペース(左下)とオフィススペース(右下)リノベーション前の倉庫(左上)と、工事後の「北王ラボ」。カフェとして利用されるスペース(左下)とオフィススペース(右下)

内覧パーティーがきっかけで満室に

テナント集めは、野村さん独自の「パーティー」をきっかけに短期間で達成。7月1日に内覧会としてのパーティーを企画し、地元のクラフトビール店やチョコレート店、日本茶店に出張してもらい、SNSで呼びかけ、知り合いを中心に声をかけた。パーティーに足を運んでくれた不動産会社の社員が個人的にテナントを紹介するなど、波が伝わるように人の輪が広がり、パーティーから2週間のうちに日本酒販売店、保険会社、パーソナルトレーニングジムなどの入居が決まり満室になった。

野村さんは旭川市内の高校を卒業後に米国の芸術大に進んで音楽活動をし、地元の旭川にUターンする前は、米国でミュージシャンや翻訳家として活動するなど海外で長く暮らしてきた。人を集めるためのパーティーの力を感じていた野村さんは、関わった自社物件を紹介するときには必ず、オープン型のパーティーを企画している。「仲介会社に手数料を払って丸投げするのではなくて、顔の見える人に来てもらって、その人の輪が外に波及していくほうが経済的で、大事にしている『有機的に人をつなげる』ことにも合致します。物件を求めている人の紹介だけでなく、改修のアイデアももらえますよ」と言う。

多くの人のつながりが生まれたパーティー多くの人のつながりが生まれたパーティー

事業を起こすハードルを、より低く

野村さんの独自のスタイルはパーティーにとどまらず、相場の半額ほどという手頃な賃料でテナントに貸し出し、頭金は不要、改修も自由で完全な原状回復は求めないとしている条件設定にもある。活気あるまちに欠かせない創業を促すよう、高いハードルである初期投資を抑えている。「物件を取得するときは、買うまでにかなりの時間をかけてオーナーとの交渉を重ねます。安く貸すために、安く買う。相場の動きと、利活用に必要な金額を正確にオーナーに示し、売りたい値段と適正金額に差があることを分かってもらいます。地方都市では、不動産市場にそれほど需要がないからこそできます」と極意を教えてくれた。

米国やニュージーランドにいた頃、地元の人々が建物をDIYで直し、活用する文化を目の当たりにしてきた野村さんにとって、日本での創業のハードルの高さは異様に映った。「頭金や、建築工事の会社に払う費用が高くてやりたいことができない、という言い訳をなくしたかった。やるか、やらないか、がいいと思います。じゃあ、安い賃料で好き勝手いじれて、という条件を自分でつくろうと考えました」

日本酒専門の酒店を2020年9月にオープンさせた白幡由紀子さんは、「飲食店は膨大な敷金・礼金が必要になるので、初期投資が抑えられるのはとても助かりました。その分、自分の思った店づくりができました。相談できる野村さんが間に入ってくれたことで、知り合いの物件を紹介してもらっている感覚で、安心できます」と言う。

野村さんによると、事業を起こすハードルでは、オーナーとの人間関係も大きい。これまで創業希望者の相談に乗るなかで、事業の内容によっては拒否されたり、高額な頭金を要求されたケースを聞いていた。「建物がこれだけ余ってきています。『貸してあげている』という時代は終わりました。借りてもらえるだけでありがたいくらいです。空物件なのになかなか貸さないとなると、そのオーナーの判断が地域に影響を与えることになります。こういった当事者意識を持ったうえで、パートナーとして後押ししていきたいですね」と言う。

「北王ラボ」1階に日本酒専門店をオープンさせた白幡さん「北王ラボ」1階に日本酒専門店をオープンさせた白幡さん

彩りを失った故郷に衝撃を受けて

彩り豊かなまちをつくる構想を話す野村さん彩り豊かなまちをつくる構想を話す野村さん

旭川にUターンしたのは2016年。13年ぶりに地元の中心部を見た時に、まちに「彩り」がなくなっていることに衝撃を受けたという。昔は店舗がひしめき合って看板やサインがあふれていたが、表通りに駐車場が増えて見通しが良くなった結果、ビルの汚れた背中が見える状態だった。中古物件が増えるなかで野村さんに新築へのこだわりはない。「新築にコストをかける体力のある事業者は地方に多くないので、既存の古い建物を利用して彩りを増やしていくのが現実的です」と冷静だ。

彩りをどう増やすか。野村さんは2つの構想の具体化を始めている。

1つは、廃ビルのリノベーションだ。
野村さんにとって、都市と自然が隣同士にあるのが旭川らしさ。その環境を生かし、休日のアウトドアやスポーツに没頭するなど暮らしを楽しんでいる人が多いため、そういう人が集まるような拠点を思い描いている。1つの建物で人と人の関係を育んでいけるように、単体ではなく複合的な用途を持たせ、小さなコミュニティーにするイメージだ。「物件運用を通して、『この辺りは面白くなってきたから住んでみよう』となれば理想です。旭川は市街地が拡大し、だだっ広いまちになった。できるだけ化石燃料に頼らず、密集して住めるようにできれば」

2つ目は、既に注目を集めている「アーティスト・イン・レジデンス」だ。市外からアーティストを招き、自社の中古物件に滞在してもらい、地元の人を交えながら制作することを重ねる。2020年7月~8月には油絵を専攻する美術大生やジャズピアニストが滞在して作品展やライブを開き、9月には翻訳家・編集者が旭川入りし、野村さんが所有する別の倉庫でトークショーや交流会があった。野村さんは「分かりやすいアートを入り口に、人が関わりあうようにしたいですね。地元の人が外部の人の意見を聞いて、感化されると楽しいです」。

旭川らしさをベースに、既存物件の新しい生かし方を模索する野村さん。人と人がつながり合い、文化的な創作活動や仕事づくりを盛んにすることが、まちを彩り豊かにするのだと教えてくれた。

2020年 10月21日 11時05分

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October 21, 2020 at 09:05AM
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